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ドラッグストアの躍進!福島県の小売業の将来像を占う。

お久しぶりです。久々に更新となります。

さて、今回はTwitterでここ最近ちょくちょくツイートしている小売業に関するお話です。(小売業:わたしたちが買い物するお店のことをひっくるめてこう呼びます)

 

最近皆さんの身近でドラッグストアが増えていると思いませんか?

そう実感されているならば正解です。
そうです、福島県内でのドラッグストアの店舗数は非常に増えています。

 

これは福島県のドラッグストア店舗数の推移です。
経済産業省「商業動態統計年報」より。ドラッグストアの店舗数調査開始は2014年〜)

2014年 144店舗
2015年 155店舗
2016年 171店舗
2017年 184店舗
2018年 193店舗
2019年 211店舗
2020年 231店舗
2021年 242店舗(6月・商業動態統計確報時点)

 

【各企業の運営するドラッグストアが50店舗以上あるか、年間売上が100億円以上ある】ことが調査対象とする1つの条件であることから、実態よりは若干過小に出ていますが、ご覧いただいてもわかるように非常にハイペースで店舗が増えていることがおわかりいただけるかと思います。たった7年間で県内に100店舗近く増えています。

県内の店舗数が多いチェーンは以下のとおりです。抜けていたら申し訳ありません!(7月中旬時点の県内店舗数)

  1. ツルハドラッグ【110店舗】
  2. ウエルシア  【35店舗】
  3. カワチ薬品  【31店舗】
  4. くすりのマルト【22店舗】
  5. サンドラッグ 【16店舗】
  6. マツモトキヨシ【15店舗】
  7. クスリのアオキ【13店舗】
  8. 薬王堂    【13店舗】
  9. ハシドラッグ 【13店舗】

と言った感じです。

 

 

時は、ドラッグストア戦国時代。

そもそもなぜドラッグストアがここまで増えているのかと言うと、一番の理由は「今出店しないと、出店できる場所がなくなってしまうから。」ということに尽きます。

ここ数年まさにドラッグストアが大激戦になっている状況です。

ドラッグストア業界は大手が中心となって近年店舗数を一気に増やしてきています。特に業界大手のツルハドラッグ(ホールディングス)やウエルシア等は最近毎週のように新店舗を全国に数店舗ずつ出店していますし、前述の店舗数推移でも2018年以降福島県では1年で20店舗ペースで増えています*1

ドラッグストアは人口が非常に少ないところでも店舗を出店する攻めの出店姿勢に転じています。ドラッグストアの中でも、特にツルハドラッグなどは現在人口が5000人いれば1店舗出店できると言う姿勢のもと、これまで以上に出店ペースを加速させています。

そもそも、ドラッグストアは何で儲けているの?

ドラッグストアの印象は?と言えば、「お菓子が安い」だとか「飲み物が安い」と言うことにあると思います。

実際その通りでドラッグストアの特売のお菓子は非常に安価に設定されています。この価格は従来のスーパーマーケット等が太刀打ちするのはなかなか難しい価格帯です。

なぜ、お菓子や飲み物を安く販売することができるのかと言うと、ドラッグストアは医薬品や化粧品などで大きく利益を出すことができる仕組みのためです。そして何より医薬品や化粧品は小売業の様々な商品の中でも極めて小さいサイズで使用期限が長いにもかかわらず、単価が高いです。これは単純に顧客1人あたりの単価を引き上げることに繋がります。

詳しい事は省略しますが、この利益があるからこそお菓子や飲料などの食品を激安価格に設定できるわけです。

とある週の特売価格例:県内で最も店舗数の多いツルハドラッグの場合(税抜)

・GREEN DA・KA・RA 600ml/グリーンダカラ優しい麦茶 650ml/生茶 525ml/THE STRONG天然水 スパークリング 510ml 67円

・健康ミネラル麦茶2L/十六茶2L/三ツ矢サイダー1.5L 118円

・マイクポップコーンバターしょうゆ/元祖たこやき亭まろやかソース 58円

・わかめラーメンごましょうゆ/赤いきつね/一平ちゃん夜店の焼そば 98円

・日清カップヌードル 118円

マルちゃん正麺 5食 298円

これらのような商品が、個数制限なしで特売期間の1週間を通じて販売されています。やはり安いですね。

 

 

これから暮らしを支えるなんでも屋さんになっていく

ドラッグストアは近年顧客の利便性を高めるために、新たに力を入れている部門があります。それが食品部門

特にお菓子・飲料・調味料・レトルト食品と言うこれまで販売してきたもの以外にも、冷凍食品・アイス・野菜・日配品(油揚げ・牛乳・納豆)・パン・米・酒・加工肉(ウインナー・ベーコン)など、これまでスーパーマーケットが特に中心となって取り扱ってきた商品を取り扱うドラッグストアが非常に増え、スーパーマーケットの併設タイプや小規模なドラッグストアを除き取り扱い店舗は格段に増加しています。

また、下着や衣類、調理器具、農作物用殺虫剤、ペット用品、園芸用品、食器などにまで拡張していき、従来ホームセンターが中心となって取り扱ってきたジャンルを店頭に並べる店舗も増えています。

病院帰りに買い物と調剤を一気に済ませることのできる、処方箋薬局併設型店舗も増加。顧客は調剤中に買い物ができて、調剤側も顧客を待たせることがない。顧客・調剤側共にWin-Winな関係です。

 

まさに日常の暮らしを支える業態へと進化をしている、ドラッグストア。

この結果従来型の小売業も非常に大きく影響を受けることになっています。

 

既存各業態(店舗形態)の受ける影響

店舗数の増加だけではなく、当然年間売上高も年々うなぎ登りです。

県内のドラッグストアの売上高は2018年→19年→20年の間に年あたり100億円ずつ増加しています。県内人口が大幅に増えているわけでも、特別景気が良いわけでもないですから、他業種がその分ある程度侵食されていることは確かでしょう。少なからず影響をもたらしていると推測されます。

ここまで書いてきたとおり言わずもがな、このドラッグストアの躍進が日本、そして福島県内の既存小売業にも影響をもたらす可能性は大きくなっています。 

ドラッグストアの大躍進で、それぞれの業態(店舗形態)が抱える問題点を見ていきましょう。

コンビニエンスストア

  • 本来、コンビニエンス(利便性)の引き換えとして、相対的に高価な価格での販売が実現できていましたが、特に食品の希望小売価格に近い(相対的に見ると高価な)価格での販売が成立しない可能性があります。
  • 特に、食品強化型ドラッグストアであれば、従来型のコンビニエンスストアと変わりない品揃えが実現できますし、急に薬がほしいとか湿布が欲しいというときにはむしろドラッグストアのほうが便利な可能性が十分にあります。
  • 長年、一定の規模で展開してきたコンビニも「売り場面積がもう少し大きくて、食品が安い」ドラッグストアが地位を揺るがす可能性は比較的高いと言えます。今後の展開は大手4社の動向次第と言えそう。

ホームセンター

  • 近年はドラッグストアでも、靴下や下着、農関連用品、ペット用品、調理器具などの取り扱いを従来以上に強化した店舗が増えています。ホームセンター的用品の取り扱いも増しており、競合する可能性も高くなっています。ホームセンターが取り扱ってきた菓子・飲料等も以前より売れにくくなる可能性も十分あります。
  • 本来ホームセンターはDIYや園芸関連用品、工具を大きな柱として取り扱う業態のはずが、日本の場合長年洗剤やティッシュ、生活雑貨などをベースとした商品やそれらの特売に頼る形式が続いてきました。しかし、これらの商品は完全にドラッグストアが本業として展開する商品の領域と同じです。
  • 加えて言えば、ワークマンのような作業用衣料チェーンが従来から支持を集めていて、店舗数を増やし続けていることは従来型のホームセンターの作業用衣料等の取り扱いが不足していることにほかなりません。
  • 以上、述べてきた商品DIYや園芸関連用品、工具を除く)の売れ行きが伸び悩む可能性は高く、本来力を入れるべき商品に注力する必要性が生じます。家電やカー用品などドラッグストアと「競合しない」分野を強化する必要も。
    特に全体として小売希望価格に近い価格で製品群を展開してきた県内発の「ダイユーエイト」をはじめとしたチェーンは価格や商品戦略を見直しする必要性が高まってきています。

スーパーマーケット

  • ドラッグストアが増えれば増えるほど、スーパーマーケット各社が取り扱う洗剤、ティッシュペーパーなど日用雑貨類やペットフード売場*2の必要性・重要性は薄くなってきます。
  • 何より、私自身の見解で「ドラッグストアの台頭でもっとも影響を受けるであろう業態」がスーパーマーケットです。

    詳しくは以下で特集します。 

ドラッグストア進化の最先端「クスリのアオキ

食品部門強化の傾向は前述してきたとおりですが、その傾向が顕著なチェーンを1つ見ていきましょう。それがクスリのアオキです。

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▼公式サイト▼

www.kusuri-aoki.co.jp

 

県内13店舗(2021年8月27日現在)を構える同社は、会津若松・いわき・郡山・福島・喜多方・鏡石に現在店舗を構えています。訪れたことのある方もいるのではないでしょうか。

 

クスリのアオキ」が福島県に上陸したのは、2019年春のこと。

北陸発の同社は関東甲信越や東海地方でも順調に店舗網を広げるなか、東北初の店舗として会津若松に城西町店を2019年5月1日にオープン!そこからわずか2年余で13店舗という店舗網にまで成長。ライバル「薬王堂」のお膝元である岩手県でも現在では13店舗を構えています。

 

同社は現在、本格的にスーパーマーケットの存在を意識した、食品強化型の店舗を増やしています。

県内の旗艦店(フラッグシップショップ・中心的存在の店舗)である、会津若松の天寧寺店では、なんと精肉・惣菜の取り扱いも。本格的な惣菜も並び、まさにスーパーマーケットを思わせる存在です*3

これらは単にスーパーマーケット風をやっているのか?というと、そういうわけではありません。
実は2020年に同社は金沢市のスーパーマーケット「ナルックス」と京都市のスーパーマーケット「フクヤ」の株式を9割以上取得し子会社に。すなわち、スーパーマーケットのノウハウを取り込んだ上で新たな「ドラッグストア」「スーパーマーケット」融合型業態のありかたを模索しており、スーパーマーケットの代わりになり得ると判断していることがわかります。

 

同社はすでに鮮魚取り扱い店舗も増やしており、将来的にはまさにドラッグストアとスーパーマーケットを足して2で割ったような新たな業態になっていく可能性も。

 

…「カワチ薬品」ってどうなの?

ところで、福島県民ならカワチ薬品も便利だよね!とお思いの方もいることと思います。メガドラッグストアを掲げ大型店舗で「なんでも揃うドラッグストア」という現在のトレンドを先取りしたチェーンです。

しかしながら通常サイズでコンパクトだけど、なんでも揃うドラッグストア非常に増えたことにより、わざわざ「カワチ薬品」まで出向く顧客が減少(専門的に言えば商圏が縮小)し、今後苦しめられていく可能性も。昨今の出店ラッシュの中でも出店ペースを加速せず、全国で年5店舗前後の純増にとどまります。

また、店内取り扱い全商品対象のポイントカードシステムを近年ようやく取り入れるなど、顧客ニーズに合致したラインナップを取り揃えるため*4の取り組みも遅れを取るなど、不安要素が散見されます。

 

スーパーマーケットと競合…打開策は?

ドラッグストアは、菓子・ペットボトル/缶飲料・調味料といった比較的取り扱いや管理のしやすい常温商品分野から取り扱いをはじめ、徐々に牛乳・納豆やウインナー・ベーコンをはじめとした冷蔵製品を取り扱うようになったことで、これら加工食品と呼ばれる商品全体を取り扱う様になっていきました*5

以上は、スーパーマーケットが主力としてきた商品ですが、小売業は言ってしまえば仕入れた商品に利益を上乗せして売る」という商売です。ドラッグストアが焼肉のタレを扱うのも、ふりかけを扱うのも容易なことです。

特に大手メーカーによる常温商品は、どこで買っても原則値段しか違いがありません。
言い換えればわざわざスーパーマーケットで買う理由はあまり無い製品です。
例えばカルビーじゃがりこをどこで買おうが一緒です。「じゃがりこ」の全国のドラッグストア平均価格は90円を切っていると言われますが、この価格で買えるスーパーマーケットはなかなかありません。*6

 そして、現在ではチェーンによってはハードルの高かった生鮮三品と呼ばれる鮮魚・精肉・青果と惣菜の分野も物流・小売の環境を整えるべく研究が進められています。

「食に本気になる」

このような状況で「スーパーマーケットは価格競争を頑張りましょう!」というのも当然良案とは言えませんツルハドラッグ・ウエルシアはそれぞれ全国に2,000店舗を超える店舗網を保有しており、ヨークベニマルでようやく230店舗ほどである状況で、中小スーパーマーケットは体力も価格競争力もかないません。

すると必然的に精肉・鮮魚・青果の生鮮3品と惣菜のクオリティがドラッグストアを上回る必要性が出てきます。仮にドラッグストアがこれらの分野でも力をつけてきた場合ドラッグストアが優位になり「食品」を購入する先がドラッグストアになってしまう可能性も秘めています。

スーパーマーケットにとって、POS(=販売状況を把握するシステム)の上位に入ってくるような人気商品を一生懸命安くしたり欠品しないようにすることは、重要ではありますが加工食品を中心に本気になったところで従来ほどのインパクトはありません。たとえ、冷凍食品の中で味の素の冷凍餃子がめちゃくちゃ売れているからといって、めちゃくちゃ頑張って顧客に推奨したところで他のドラッグストアでも安価に買えてしまう状況になっているわけです*7

 

ここで消費者はスーパーマーケットに何を求めているのか?どのような点が優れていれば評価されるのか?について見ていきましょう。

以下は、ニールセン2021年版 「消費者がスーパーマーケットに求めること」トップ10です。
1.価格の割に品質が良い
2.買い物・売り場を回るのが楽しい
3.商品が見つけやすい
4.セール・特売の内容が良い
5.生鮮品の質が高い
6.欠品してない
7.ポイントカード特典が良い
8.惣菜の質が高い
9.精肉鮮魚の質が良い
10.便利な立地

このようにセール・特売の内容はもちろんですが、価格に対する品質も求められています。

特に1位の「価格の割に品質が良い」を見ていきましょう。これは加工食品で価格勝負するのは難しいですから、生鮮三品と惣菜が価格に見合った品質であることが求められていると言えます。(太字にした箇所はまさに生鮮三品と惣菜で実現できるものですね。)

単に「安い」ではなく「良いものが安い」というのが大きなポイントです。加工食品の価格勝負はどうしてもドラッグストアに軍配が上がります。そこで大原則として生鮮三品と惣菜が価格に見合った良いものであることが求められています。

 

つまりこの状況での打開策は「食に本気になる」ことだと考えます。

惣菜に着目しても、今まで通り単に業者から仕入れた惣菜を並べる、冷凍の惣菜(コロッケ等)を揚げて売ることは、コンビニエンスストアでもやっているのですからドラッグストアもやろうとすれば出来ます。前述した「クスリのマルト」のみならず各社が試行錯誤をしながら取り組んでおり、スーパーマーケットにはさらなる工夫や手間が求められるようになります。

 

たとえばヨークベニマルの惣菜は良い例で、豊富な商品バリエーションと魅力的な製品の数々は唯一無二の魅力が詰まったものです*8。仮にヨークベニマルの惣菜が美味しくなく、種類も貧相なものであったとしたら現在ほどの地位が確立できていたかすら怪しいでしょう。単身や2人といった少人数世帯、共働き世帯が増える中で、料理の調理機能をスーパーマーケットに求める声は高まっているでしょう。

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ヨークベニマル

そのような中で顧客は健康面や飽きを考えても、永遠にスーパーマーケット惣菜定番の揚げ物と寿司を食べ続けるわけにはいかず、多様な料理が必要とされています。

「お肉が新鮮でおいしい」
「野菜が新鮮でおいしい」
「刺し身が新鮮でおいしい」
「特定の惣菜がおいしい」

スーパーマーケットはこれだけでも、日常的に行く理由になります。反面これらがおいしくなければ行かない理由にもなります。これらの分野はスーパーマーケットの技量が試される分野で、しっかり注力しなければなりません。 

 

そして、POS重視を超えた新たな次元の商品の取り扱いも重要となってきます。安直な言葉ですがドラッグストアが扱わない食品を取り扱っていく「差別化」が重要となってくるでしょう。
POS上位に入ってくる商品はもちろん売れている商品ですが、同時にドラッグストアにも置いてある可能性が高い商品(前述した味の素の冷凍餃子などは典型例)です。それだけを頑張って売っても伸び方には限界があります。

そこで例えば地元製品をめちゃくちゃ推しだすとか、良質な商品を幅広く取り揃えるとか、全国の良いものをしっかり持つ…といった季節のフェア的な扱いでの単発訴求ではなく定番商品として常時魅力を発信することで「常時差別化」していく必要が出てきます。

 

県内のスーパーマーケットはどうなる?

そもそも、今後の急激な人口減少も相まって各小売業が単純な成長は難しい現状にあることは間違いありません。県内の人口は今後5年で9〜10万人ペースで減少することが推測されています。(今後は成長率の目標ではなく、前年比-○%のように減少率を抑えるという思考法に転じる必要性も生じてきます。)

 

このような中で県内の有力スーパーマーケットの現状の動きを見てみましょう。

ヨークベニマル
ご存じの通り福島県内での訴求力は圧倒的です。そこまで心配する必要はないでしょう。*9

「マルト」
県内ではいわき市を中心に店舗を展開する同社。ドラッグストア「くすりのマルト」をグループ内に保有しているため今後も柔軟な展開が期待できます。この状況になってもさほど問題のなさそうな企業の1つです。

マルトCoGCaカードは、マルトグループ全体で使える電子マネー付きポイントカードであることから、購買行動をかなり的確に把握していくことができるでしょう。

「いちい」
福島市を中心に店舗を展開する同社は、ドン・キホーテ内に「ICHII'SロシナンテMARKET」という、ディスカウントストアである「ドン・キホーテ」のイメージを借りながらディスカウントタイプの新業態を展開しています。

全体として既存のスーパーマーケットの延長線上の商品展開ではありますが、セルフレジタイプで安価な価格を実現しています。

「リオン・ドール」
私自身注目しているのが県内では会津中通りで店舗を展開する、リオン・ドールの動きです。最後になりますが、非常に興味深い取り組みですのでご紹介させていただきます。

同社は2021年に入り自社の子会社がフランチャイズで展開するTSUTAYAの売場を縮小し、冷凍食品を強化し常温食品をベースとした新業態「みんなの業務用スーパー Lynx(リンクス)」をスタートしました。2021年8月27日時点で3店舗展開しています。

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記念すべき1店舗目である会津若松市にある年貢店(5月末オープン)では、810平方メートルという小規模なドラッグストアほどの店内に冷凍食品のみ(おそらくアイスを含む)で1,300品目菓子等を含めた全体で2,500品目という商品ラインナップの半数を冷凍食品が占める思い切った商品構成。

 

近年、神戸物産の「業務スーパー」が人気を集める中、県内にはまだ14店舗という状況。

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業務スーパー

 

また、市街地から離れた郊外や町村のスーパーマーケット・ドラッグストアはどこも似たような品揃えと雰囲気が広がります。コロナ禍の影響で冷凍食品の需要も高まりを見せる…

そこで、あたらしさを持った新業態として誕生したのが「Lynx(リンクス)」です。

 

キーワードは「業務用・ディスカウント」✗「おしゃれ感」✗「輸入食品店」✗「スーパーマーケット」

私自身、県内のスーパーマーケット各社に大きな動きが少ない中、今年に入ってからのこの店舗展開に興味がありすでに展開されている店舗へ足を運んだことがあります。
当初「業務用食材を取り扱うスーパーマーケットって感じなのかな…」と考えていましたが、訪れてみると正直予想を遥かに上回る良さでした。新規開発をした業態としては正直120点と言っていいほど、コンセプトのしっかりした店舗です。

その特徴と狙いを検討してみると以上の4点に集約できるかと思います。順に見ていきましょう。

1.業務用・ディスカウント

業務用スーパーという名のごとく、業務用サイズの様々な品揃えはしっかりしています。そしてEvery Day Low Price(特売日に限らず毎日安価な価格)も概ね実現されています。

ここらへんは神戸物産業務スーパー」や業務用食品を取り扱う小売店をよく研究したんだろう…と言える充実したラインナップです。

2.おしゃれ感

これまで業務用食材を取り扱う店舗は神戸物産業務スーパー」を含め、どこか殺風景で雑多感のある店舗・チェーンが多いものです。もちろんそれこそ「業務用」だから仕方ないと言い切ることも出来るのですが「Lynx」は一味違います。

業務的なパッケージの製品が多いことに加え、既存スーパーマーケットの延長線上にならないように、店内には鮮やかで美しい料理の写真を掲示することで「業務スーパー」にはないおしゃれ感を演出。オレンジカラーを基調として温かみもプラスしています。

さらに、Instagramや店内掲示で料理活用法やピックアップ商品を提案したり、一言コメントを添えたプライスカード、ダンボール箱を利用して陳列する形式を極力とらないなど、普段づかいしたくなる特別な業務用スーパーを実現しています。

3.輸入食品店

そして何より「輸入食品店」風としての側面も持ちます。

カルディだとかジュピターをはじめとしたような、輸入食品店を彷彿とさせるような既存のスーパーマーケットやドラッグストアではなかなかお目にかかれない、ちょっと良質な商品や輸入系商品を常時取り扱います。

駅ビルやショッピングモール以外の一般的な小売店では本当に見かけることが少ないような「買ってみたかった」と思わせる食品が豊富です。郊外出店が基本のリオン・ドールに併設して「Lynx」を展開することで、リオン・ドールとの差別化も実現していますし、そういった商品が近くで買えることを求めていた若い顧客などの需要を総取りする可能性すら秘めています。

4.スーパーマーケット

リオン・ドールの本業は「スーパーマーケット」です。

当然一般向け食品の取り扱いはプロですから「業務スーパー」と比較しても、取り扱っている通常の一般向け食品もスーパーマーケットに近い品揃えです。業務用で安くあれば良い!というだけではなく、有力メーカーの商品も随所に盛り込むことでメーカーやブランドを意識して購入する層へも来店しててもらうための商品構成も見られます。

 

同社は各メディアの取材で「コロナ禍による冷凍食品需要の高まりから…」と同社は話していますが、本音は少し違うでしょう。

リオン・ドールの子会社であるレオクラブがフランチャイズ経営するTSUTAYA店舗は、原則として同一敷地・建物内のリオン・ドールの購買を促進するための位置づけで展開がなされてきたといえるでしょう。
しかし、TSUTAYAの衰退傾向が顕著になってきた昨今、TSUTAYAを縮小し従来の「リオン・ドール」では陳列することが難しい商品をならべ、品揃えを補完する形としてこの「Lynx」が誕生した印象です。

 

 時代に適応していく「リオン・ドール」

リオン・ドールはこれまでの歴史を見ても、時代に順応していくのが比較的得意な企業です。

店名もそのものも、もともとの「ライオン堂」から「リオン・ドール」に一斉変更。CGC加盟店の中でも洗練されたロゴです。そもそも衣料品店からスーパーマーケットに業態転換したチェーンですがそのこと自体、今となっては必要な転換だったと言えるでしょう。

TSUTAYAブックオフが盛り上がっていた時期にはフランチャイズとして店舗を展開。そして現在、TSUTAYA自体が衰退しはじめる中で冷凍食品需要を見越した新業態開発を行う。トライ&エラーを繰り返しながら、時代に順応していくセンスが感じられます。

 

今後の展望はまだまだ見えてこないものの、このままどんどん増やしていっても「小規模だけど訴求力がある店舗フォーマット」がすでに出来ています。
通常のスーパーマーケットと比較しても地域性を問わない商品も多かった上、冷凍食品超強化型や業務用を打ち出すのはスーパーマーケット業界でもまだまだ珍しい状況です。地域を問わず展開していくことも期待できるほか、商品ラインアップの充実さは、神戸物産業務スーパー」の対抗馬ともなり得る可能性を秘めています。

 

雑誌「ダイヤモンド・チェーンストア」の最新の特集によりますと、1店舗目である年貢店では、業務用調味料・食用油の動きが鈍いのに対し、ブラジル産鶏もも肉2kg(598円)が最もよく売れているなど、想定とは異なる動きもあるとのことです。
冷凍パンもまだまだメジャーでないため取引先開拓に苦労したものの、バゲット・クロワッサン・食パン・ベーグルなど70品目を取り揃え、好調に推移するなど、単なる業務用ではなくニーズを捉えたうえでの品揃えも意識されているようです。

一方で生鮮食品や数日で賞味期限が切れる商品は取り扱わないことから、来店動機となる仕掛けについても一つの課題としています。

 

「リオン・ドール」はこのようにドラッグストアには出来ない食品分野の取り扱いを強化し、新しいスーパーマーケットの形を模索しています。

 

▼▼小売業をテーマとした雑誌「ダイヤモンド・チェーンストア」記者の記事です。▼▼

diamond-rm.net

(本見出し後半のブラジル産鶏もも肉を始めとした内容が記載された記事→雑誌「ダイヤモンド・チェーンストア」2021年8月1日・15日号 P36〜37・電子版)

https://diamond-rm.net/store/90750/(有料記事)

 

おわりに

今回は特にスーパーマーケットにフォーカスしましたが、ドラッグストアの大躍進は私達もぜひ注目したいトピックです。

個人的には前述した「クスリのアオキ」「Lynx」のような店舗が将来的に増えていき、強みを持たないチェーンのスーパーマーケットから衰退していく可能性もあると見ています。

これはDIY用品やキャンプ用品、工具など当面ドラッグストアに侵食されないであろう分野を持っているホームセンターとは異なります。

ドラッグストアが市場環境を大きく変える可能性があることは、何ら不思議なことではありません。

  • 金物屋・雑貨屋等→ホームセンター→大型ホームセンター
  • 薬屋・雑貨屋等→ドラッグストア
  • 八百屋・魚屋・肉屋・個人商店→スーパーマーケット
  • 町の電気屋→家電量販店→ネットショッピング

と変化してきたように、既存業態が新たな業態に追い詰められていくのは小売業の理です。

今後既存の小売業を脅かす存在になり、特に既存のスーパーマーケットが生鮮三品+惣菜、地域色をはじめとした「食に本気になる」ことで日常的な魅力を訴求できない場合には、今後追い込まれていく可能性も十分にあるといえるでしょう。当然リオン・ドールのようなスーパーマーケットの良さを更に広げる時代適応のありかたも、十分に考えることが出来ます。

現在のドラッグストアは延床が1,000平方メートル超ほどで大規模小売店舗立地法の規制対象ではあるものの、いわゆるショッピングセンターなどの大型店ではないことから現在の小売市場環境を踏まえても行政の出店・営業規制も難しいでしょう。

「どうしよう」とか「助けて」と言っているだけでは、何も変わりません。今から新たな策を模索し、着実に実行していくことが求められます。

 

おまけ

その①

一方で私達消費者も、安さだけを求めすぎないことが大切です。「くすりのマルト」「ハシドラッグ」以外のドラッグストアは基本的に県外発です。県外発の企業や大手企業は基本的にあまりに不採算の場合容赦なく撤退します。

特に人口の少ないような町村の場合、将来「スーパーマーケットもドラッグストアも無くなり、何もない…」とならないように大手ドラッグストアだけではなく、地元発のスーパーマーケットやドラッグストアも大切にするような購買行動が求められます。

人口が減っていった時、最後に支えてくれるのは地元の小売店です。

 

その②

「全国展開を実現したスーパーマーケットチェーンは存在しません。」

小売業について語る時にしばしば言われることではありますが、それはまさに地域の食文化に対応してスーパーマーケットが成長してきたことの証です。

地域らしさをより打ち出し、『食品はやっぱり「スーパーマーケット」』と言われるために、今後各社がどのような策を講じていくのか。注目ですね。

*1:閉店している店舗もあるので純増。

*2:現在ドラッグストア各社はペットフードの取り扱いも力を入れているため。

*3:Google Mapsなどでも投稿している方がいらっしゃいますので見ることが出来ます。

*4:ポイントカード最大の目的は顧客にポイントを付与すること以上に、購買行動を的確に把握することにあります。

*5:スーパーマーケット併設型のドラッグストアは除く。契約等で競合商品の取り扱いを禁じている場合などが存在するため、食品の取り扱いは常温商品にとどめ、冷蔵・冷凍商品の取り扱いはしない場合が多い。

*6:現在、顧客には「お菓子とペットボトル飲料は絶対ドラッグストアで購入する!」という層もいることでしょう。

*7:メーカーからのアローワンスやリベートを期待するのですれば意味はあります。

*8:ヨークベニマルは100%子会社であるライフフーズが惣菜・弁当・寿司・ベーカリーの製造・販売を担っています。ただし2022年3月ヨークベニマルに吸収合併予定。

*9:ただ、かなりビジネス的な会社なので場合によっては容赦なく撤退する可能性もあります。